銀行などと住宅ローンを結ぶ時には、必ず住宅にローンの担保としての「抵当権」が設定されます。
つまり、債務者がローンの返済が不能になった時は、抵当権を行使して住宅を差し押さえるということです。この抵当権に関してはある程度理解していても、同じような種類の根抵当権との違いを理解している人はそれほど多くありません。
根抵当権とは?
根抵当権はその名の通り、抵当権の一種ですが、普通の抵当権とは異なり、「特定の債権」を担保するために設定するものではありません。特定の債権とは上記の住宅ローンが該当します。
根抵当権は「一定の範囲」に属する「不特定の債権」を「極度額」を限度として担保するために設定します。
・民法第398条の2第1項:抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
例えば、A社がB店に毎月、自社の製造商品を100万円納めるという契約をしたとします。
A社にしてみれば、これから将来的に発生してくる売掛債権をすべてB店がきちんと支払ってくれるのか、不安になります。そこで、返済を担保するために、B店の所有している不動産などに抵当権を設定するとします。
普通の抵当権の場合は被担保債権を特定している必要があり、またA社への支払いが完了すればB店への抵当権は当然消滅します。
従って、A社は毎月、製造商品を売るたびに売掛債権について、抵当権の設定登記をしなければなりません。これでは無駄な時間と費用を浪費するだけです。
上記のように継続して取引する場合に、一定範囲に属する不特定の債権を、極度額の範囲で担保するのが根抵当権です。
根抵当権を設定すると、A社はいちいち売買のたびに抵当権を設定する手間が省け、B店も極度額の範囲内でいつでも、いくらでも仕入れることができるようになります。
極度額
根抵当権を設定する際には、担保の限度額を決めますが、その限度額のことを「極度額」と呼びます。
そして、極度額においては、他の債権者よりも優先して債務の弁済を受けることができます。また、債務者は極度額の範囲内で債務の増減が可能になります。
極度額の利用方法は銀行などが消費者に提供しているカードローンと変わりません。
根抵当権の特徴
根抵当権の特徴はいくつかありますが、最も大きなものは以下の2つです。
①付従性が無い
付従性が無いということは、「債務を全額返済しても根抵当権は消えない」ということです。
仕入れた物の返済日は必ず毎月来るため、仕入額を全額支払った時点で根抵当権が消滅したのでは取引の継続性が保てなくなり、根抵当権を設定した意味が無くなります。従って、債務の有無に関わらず、根抵当権は残ることになります。
このことは銀行からの借入の場合も同様です。銀行からの借入額を全額返済したことで根抵当権が消滅したのでは、その後の他社への支払いのための借入が間に合わなくなり、利益があるのにお金が足りないという「黒字倒産」にもなりかねません。
根抵当権は債権者、債務者ともに継続性というメリットを得られます。特に事業性資金でお金借りるなら、確実に根抵当権で借りた方が良いでしょう。
②随伴性が無い
随伴性が無いということは、債権が別の人に譲渡された場合でも根抵当権は移動しないということです。
つまり、根抵当権では多数の債権と担保が結びついているため、1つの債権を譲っただけで担保まで移動されると、多くの債権を有している債権者が不利になるからです。
包括根抵当権の禁止
担保される債権の範囲をすべての取引に対して無制限することを包括根抵当権といいます。これでは、持ち主が不動産などを活用する上で、過度な制約を受けてしまい、適正な流通を妨げることになります。
そこで、根抵当権の対象が不特定の債権ではあったとしても、一定の範囲に限定されています。
・民法第398条の2第2項:前項の規定による抵当権(根抵当権)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
前記の例でいえば、根抵当権がA社がB店に納める商品販売に限定されると、仮にA社が商品販売とは異なるサービスをB店に提供しても、根抵当権に含めることはできません。
元本確定
根抵当権は債務を全て返済したからといって、消滅するものではありません。そこで、期日を決めて、その期日の時点でいくらの債務が残っているのかを明確にするのが「元本確定」です。
なお、元本を確定する期日を定めていなくても、根抵当権の設定の時から3年を経過した時は、担保すべき元本の確定を請求することができます。そして、元本が確定すると、根抵当権は普通の抵当権と同じ扱いになります。
根抵当権が設定できるのは、商取引における売買契約や商品供給取引、銀行取引に限定されています。